研究概要 |
湾内における物質輸送を考える上で、往復流である潮流よりも比較的ゆっくりと変動する残差流が重要であると考えられている(宇野木1993)。しかしながら、濱田・経塚(2007)は、有明海の物質輸送の詳細を知るためには、残差流の時間変動を考慮に入れる必要があることを示唆している。そこで、塩分のデータより残差流の時間変動特性を推定した。その結果、湾奥部の残差流は1週間から1ヶ月程度の時間スケールで見た場合、大きく時間変動し、その変動は小潮時の密度流の強化、短期気象擾乱(台風等)による吹送流に起因すると推察された。 さらに有明海湾奥の貧酸素水塊の形成と深い関わりがあると考えられている、底層水の貫入に伴う底層フロントおよび表層フロントの変動特性を把握するため、湾全域の水温・塩分の測定ならびに湾奥部における塩分の係留観測を行った。その結果、1)表層フロントは湾口の混合域と成層域の境界に形成されるのに対して底層フロントが湾奥部(諌早湾沖以北)に形成される,2)底層フロントは小潮になると、より湾奥部,測点A付近まで進入する、ことがわかった。こうしたフロント位置の変化は湾全体の成層強度変動と共に起きている。大潮小潮周期の貧酸素水塊の変動は伊勢湾などでも観測されている。伊勢湾の場合、それは湾口の混合域から湾内に貫入する水塊の貫入深度の変化によって引き起こされている(Kasai, et. al.,2004)。一方、本研究の結果は、有明海の場合,大潮・小潮周期変動は混合水の貫入深度の変化ではなく、底層フロントの位置と成層強度の変化によるものであることを示している.
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