研究概要 |
有明海の生態系の構造および変動を考える上で, 海水流動に伴う物質輸送過程を明らかにすることが必要不可欠である。本研究の目的は, 代表的な保存性物質である塩類の輸送量に着目し, その変動の実態を明らかにすることにある。平成20年度は, 平成19年度に引き続き現地観測データの蓄積を図るとともに, 次年度に計画している数値シミュレーション用の数値モデルの構築と予備実験を行った。平成20年7月に, 有明海中央部から奥部までを縦断する測線, ならびに中央部を横断する測線を設定し, 水温・塩分の鉛直分布を高頻度(2〜3日毎)で測定した。これにより, これまでに存在しなかった, 総観的海況の短周期変動の把握を可能とする水温・塩分データを得ることができた。さらに, 音響ドップラー流速計, ならびに水温・塩分計の係留観測により, 流速の鉛直分布ならびに水温・塩分の一ヶ月程度の連続観測データを得ることが出来た。音響ドップラー流速計による観測データから, 湾中央部では上層で南下, 下層で北上する残差流が卓越していることが判明した。残差流の流速は大潮時に大きくなり, 小潮時には小さくなる。このことから, 残差流は密度流以外の流動成分によるものであることが示唆される。これは, 従来の知見には無い注目すべき結果である。平成21年度に計画している, 数値シミュレーションによる塩類輸送過程のマッピングに向けて, 数値モデルの構築を行った。数値モデルは潮流成分については現地観測結果をほぼ再現することに成功した。残差流成分については, 定性的傾向を再現することは出来たが, 詳細については改善の余地があり, 次年度に計算条件を見直し, 再現性の向上を図る。
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