温室効果ガスのシンクであった熱帯泥炭湿地林は、近年頻発する森林火災によって、現在大量の炭素放出源となっている。これは1996年の大規模な人為的な地下水位低下による表層泥炭の乾燥化による影響が大きい。過去に無い泥炭湿地林の危機的環境を広域かつ正確にモニタリングし、火災発生の危険度および火災後の植生回復に必要な水文環境条件を明らかにする事が、湿地林環境保全・災害防止の観点から急務である。しかし、泥炭湿地林において、衛星で得られるデータと地表面における水文環境などの現地詳細環境情報をリンクする手法は確立されていないのが現状である。 森林に被覆された泥炭層表面の情報は、光学衛星センサでは捉えられないため、水文環境を把握するのが困難である。そこで、泥炭湿地林における水文環境を広域把握するための手法には、植生季節性(フェノロジー)を媒介に水文環境を推測する手法を使用する。本研究においては、現地森林上部における分光反射データをモーターパラグライダー搭載分光放射計により大気の影響を最小に抑えた条件下で取得し、湿地林植生分光反射特性からその立地環境(泥炭土壌特性・水文環境)情報を反映した植生指数の開発を目指す。この開発した植生指数を用い、高分解能衛星QuickBird(地上分解能: 2.4 m)画像データへ、更に多時期の中分解能衛星(ASTER、ALOS、FORMOSAT2 :地上分解能それぞれ15m、10m、10m)画像データへ適用しスケールアップを図る。開発植生指数の季節変動を広域にモニタリングすると同時に、対象泥炭地広範に設置した地下水位計データにより得られた地下水位変動との関係から熱帯泥炭湿地林における長期水文環境の広域モニタリングを試みる。 モーターパラグライダーによるグランドトゥルース情報収集手法を確立できれば、世界に先駆けて、衛星画像による高精度モニタリング研究を発展させることが可能となる。また、衛星画像データと地上分光反射データとのリンクという、多地上分解能衛星データ・多時期衛星画像データへの適用の研究に対するボトルネックとなっていた部門が整備され衛星画像を用いた複数衛星画像データを用いたモニタリング手法の確立に寄与できることが考えられる。
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