アミノ酸の量や組成は、溶存有機物(DOM)の分解性や初期続成作用を知る上で重要な情報を提供してくれるが、海洋DOMにおけるアミノ酸の最も興味深い特徴は、D-アミノ酸の存在である。グリシンを除くアミノ酸には光学異性体(鏡像異性体)が存在し、D-体とL-体と呼ばれている。全生物中のタンパク質はL-体のみで形成されているが、海洋DOMのアミノ酸には、D-アミノ酸が多数存在する。バクテリアの細胞壁の一部であるペプチドグリカンにはD-アミノ酸が存在し、その他のバクテリア由来のバイオマーカーも海洋DOMの大部分を占める難分解性DOMの主要な起源ではないかという仮説が提唱されている。陸水域である湖沼・河川でも、海洋と同様にDOMの分解性や起源が注目されているが、海洋においてバクテリアが難分解性DOMの主要な起源であると示されているにも関わらず、河川や湖沼ではアミノ酸を測定した研究がほとんどなされていない。本研究ではこの点に注目し、D/L-アミノ酸を使って異なった水域でのバクテリア起源のDOM量を明らかにすることを提唱し、アミノ酸に量と室に関する情報とDOMの分解性や分子サイズなどとの関連性を明らかにする。 平成20年度はアミノ酸を測定する新しいHPLCを導入し、より高感度の測定法の確立を目指すとともに相模湾や東京湾などでも試料採取を行った。相模湾の試料ではD-アミノ酸の存在比(D/L比)は外洋と比べて低いことがわかり、地域によってD-アミノ酸の存在比は異なること、またD-アラニンのD/L比は深度方向に向かって増加していることから続成作用を示す指標になりえることが分かった。現在はデータを整理して論文投稿の準備をしている。
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