これまでの研究で、微小大気粉塵に含まれるアンチモン(Sb)の濃縮係数が著しく高く、またその傾向は都市域ほど顕著であることがわかり、人為的なSbの発生源が環境に負荷を与えていることが明らかになった。Sbは現在のところ未規制物質であるが、有害性が懸念されている元素である。本研究では、いくつかのSbの発生源(自動車のブレーキダスト、廃棄物焼却飛灰など)に着目し、各発生源が環境に及ぼす負荷を評価することを目的としている。本年度は、道路沿道における大気中Sb濃度の分布および自動車ブレーキダストの寄与を評価するため、ブレーキダストの排出挙動を明らかにし、排出係数を導出した。 排出係数は、運動エネルギー負荷および制動時間に応じて増大する傾向が見られた。一般的な乗用車の制動を仮定した場合(車両総重量 : 2000kg、パッド面積 : 100/56cm^2(前輪/後輪)、初速度 : 50km/h、減速度 : 1.0 m/s^2、ブレーキ力配分 : 0.7/0.3(前輪/後輪))、ブレーキダストの排出係数は5.9mg/braking/carと見積もられた。ブレーキダスト中の元素濃度分析によって、ダスト中のFe濃度が、パッド中よりも過剰であることが明らかになり、鋳鉄製ディスクの磨耗に由来するダストの発生が無視できないことが示された。各元素のマスバランスから、パッドおよびディスクの磨耗に由来するダスト排出量の寄与を算出したところ、それぞれ約70%、30%と見積もられた。以上の結果および用いたパッド中のSb濃度(0.78%)をもとに、ブレーキダストの排出係数をSbベースに換算したところ、上記の仮定において33Sb μg/braking/carの排出係数が得られた。
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