研究概要 |
本年度は一酸化二窒素(N20)同位体モデルの開発着手と,観測された大気中N20濃度の季節変動と増加率年々変動の解析及び,モデル結果との比較を行った。 季節変動に関しては北半球高緯度において,夏から秋にかけて最小となるが,それはモデルでも概ね再現された。成層圏経由気塊にタグを付けた計算により調べたが,その最小値は成層圏から低濃度気塊が降下してくることにより生じているということが分かった。また,西シベリア域で航空機観測により得られたデータを解析したところ,季節変動の最小値が高度が高いほど早く表れる傾向が見られた。これもモデルによりよく再現され,これは当初の成層圏影響を調べるという目的をある程度果たすことができた。 同位体計算はまず測定精度が良く比較的循環・収支についてよく理解されているδ^<15>Nをモデルに組み込んだ。同位体の地表放出源については先行研究で得られた全球値を与え,成層圏における光化学反応については温度・波長依存の吸収断面及び励起酸素との反応係数を考慮した。まず最初に成層圏の大気球により得られている同位体結果と比較した結果,大まかなプロファイルはほぼ再現された。しかし,^<15>N^<14>N^<16>0の過小評価と,細かな鉛直濃度、同位体比構造が良く再現できていないということが見出された。前者については,放射計算の改善や,あるいは文献による同位体分別係数の過小評価の可能性が考えられる。後者については,モデル解像度や座標系スキームが問題と考えられるが,本研究の主旨にあまり影響ないと考えられる。地表では北半球高緯度において夏から秋に同位体比値の増加が計算され,目的通りの結果が得られていると考えられる。これについては,未だ観測値も存在しないため,本モデル計算により予想される変動スケールを提示するという意味で,本年度で一番インパクトの大きな研究成果であると考えられる。
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