本年度は一酸化二窒素(N2O)同位体モデルの改良と、対流圏における大気中N2O濃度の季節変動への成層圏の影響についてのモデル再現能の検証を行った。 成層圏大気球によるN2O同位体観測値との比較から、モデルにおける同位体分別が過小となっている問題を改善すべく、文献等から得た情報をもとに様々な同位体分別係数を与え、計算値が観測と最も近くなる分別係数を決定した(発表1)。しかし、依然としてモデルは観測値を過小評価しており、その原因追究のために様々な化学計算時のパラメータを出力して調べた結果、モデルオリジナルの放射・光分解計算スキームにおける光波長分解能に問題があることが分かった(発表2)。この部分は本研究において主要部分ではないが、世界初の気候モデルと気球観測時気象場を用いたN2O同位体シミュレーションを行うことは本研究目的の一つであるため、本問題を解決すべく新たな光化学フラックス計算スキームを導入することに決定した。 対流圏における大気中N2O濃度の季節変動に関して、本年度は環境研主導の日本航空定期航空機(JAL)を利用した自動大気サンプリング装置観測(CONTRAIL-ASE)のN2O濃度測定データを用いることにより、圏界面付近のN2Oの成層圏-対流圏交換が活発な領域におけるモデル再現能を検証することが可能となった。その結果モデルは非常によく観測値を再現しており、成層圏-対流圏交換を研究する上で十分な性能を備えているということが実証された。一方で南半球においてはやや再現能が落ちることから、気象データの質の不均一性問題や、モデルの空間分解能を上げることにより改善する可能性が見出された。
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