本年度は、航空機観測データを用いた地表-上部対流圏における大気中一酸化二窒素濃度の季節変動の解析を行った。本研究では4セットの航空機観測データを用いて、モデル計算値と比較し、大気中一酸化二窒素(N2O)濃度の季節変化における成層圏の影響評価を行った。その結果、赤道上空ではほとんど季節変動が見られない一方で、32°N、30°Sにおいては主に亜熱帯ジェットの影響により成層圏空気の貫入が、特に春季に頻発しており、地表付近では見られない著しいN2O低濃度が観測される。モデルもそれら低濃度イベントをよく再現した。またモデルのタグ付きトレーサーを用いて定点航空機観測の平均的季節変動における成層圏影響を調べた結果、スルグートと上空では0.5-7kmの全高度において成層圏の影響が強いことが分かった。一方南半球のタスマニア上空では成層圏影響よりもむしろ地表ソースに代表される対流圏の影響が主な変動要因であることが分かった。日本上空は最も複雑で高度3km以下の地表付近では地表ソースの影響が強く、それより上では成層圏影響が強いことが分かった。これはこの付近は大陸の強いN2Oソースの影響下にあり、また同時に圏界面付近では亜熱帯ジェットと時には極ジェットも蛇行して重なるため圏界面のフォールディングにより成層圏空気が頻繁に流入する地域でもあることを反映していると考えられる。それに対して南半球では北半球ほどジェットやそれにともなう成層圏-対流圏交換が強くないため、タスマニア上空のN2O変動にもそれほど成層圏影響が見られなかったと考えられる。これらの結果については査読付き科学雑誌へ論文投稿した。 またN2O同位体モデルの光化学計算スキームの改良を行い、成層圏におけるN2O同位体観測値の再現性が劇的に向上した。光波長分解能を向上させることによりN2Oの同位体分別の計算がより現実的に行われるようななったためと考えられる。
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