研究概要 |
東アジア縁辺海および北太平洋において、南北トランセクトで採取された海底堆積物に含まれる風成塵の供給源と粒径、およびそれらの時・空間分布を検証し、過去の温暖期における偏西風主軸・蛇行度の変動を調べ、温暖期における東アジアの気候安定性を検証することが本研究の目的である。そこで当該研究課題の2年目となる平成20年度は、日本海の中部および南西部から採取された海底コア試料(KR07-12-PC-8,KR02-06-DGC6)を用いて、最終氷期最盛期から現在に至るまで、主に後氷期(過去約1万年前〜現在の温暖期)における偏西風軸の変動を検証した。 1.日本海南北トランセクトコアを用いた分析 日本海の2地点で採取されたピストンコア試料の過去3万年間に相当する層準から、約200年間隔でサブサンプリングを行い、分析に用いた。日本海に堆積する砕屑物のシルトサイズ(>4μm)粒子はそのほとんどが風成塵であることが示されていることから(Nagashima et al.,2007)、各試料について薬品処理および沈降法を用いてシルトサイズの陸源砕屑物粒子を抽出し、石英の電子スピン共鳴(ESR)分析、粉末X線回折(XRD)分析を行った。 2.分析結果 ESR/XRD分析の結果から、風成塵の主な供給源が最終氷期から後氷期にかけて、モンゴル南部のゴビ砂漠からタクラマカン砂漠へと移行したことが示された。次に、南北トランセクトコアでの風成塵供給源の違いを基に、偏西風主軸の動きを詳しく検証したところ、約2万5千年前から1万年前にかけて偏西風軸が北上し、更に後氷期において、およそ2千年の周期で偏西風軸が南北にシフトしていた可能性が示された。この結果は、氷期と間氷期との間で東アジアの気候システムが大きく変化したこと、また氷期に比べ気候が安定していたと考えられている間氷期(温暖期)においても、準周期的な東アジアの気候変動が起こっていたことを示唆する。来年度以降は更に過去に遡り、約12万年前の間氷期について、偏西風の変動を検証する予定である。
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