研究概要 |
本年度は、日本海の南西部から採取されたコアのMIS 5に相当する試料の追加分析と、日本海の中部から採取されたコアのMIS 11に相当する試料の分析を行った。更にこれまで行った風成塵供給源の復元結果から、過去の温暖期における偏西風の変動を議論し、東アジアの気候安定性の検証を行った。 1.MIS 1 MIS 1における風成塵の供給源は、タクラマカン砂漠とゴビ砂漠の間で数千年毎に変動し、タクラマカン砂漠からの風成塵の寄与が極大になる(夏季に偏西風がチベット高原の北に位置していたことを示唆)タイミングは、アジア夏季モンスーンの降雨が中国北東部で増加する時期(Hong et al., 2005)および北大西洋のIRDイベント(Bond et al., 2001)と一致していた。この結果は、MIS 1において夏の偏西風ジェット軸の北上が中国北東部(南東部)でのモンスーン降雨の増加(減少)を引き起こし、かつ北大西洋の気候変動とも密接に関連していたことを示唆する。最終氷期には北大西洋の寒冷期に偏西風ジェットが南下したことが示されているが(Nagashima et al., 2007)、MIS 1には北大西洋の寒冷期に偏西風ジェットの北上が示唆された。 2.MIS 5 MIS 5における風成塵の供給源は、北大西洋の温暖になるタイミング(MIS 5a, 5c, 5e)でタクラマカン砂漠からの風成塵の寄与が極大になった。MIS 1よりも温暖であったと考えられているMIS 5eの間は顕著な供給源の変動はみられなかった。 3.MIS 11 MIS 11における風成塵の供給源は、何度か千年スケールで変動していた。年代決定精度が不十分であるため、他地域のデータとの比較は今後の課題である。 これらの結果から、地球温暖期において、東アジア上空の偏西風ジェットは千年スケールで変動しており(ただしMIS 5eは比較的安定していた)、夏季モンスーン降雨帯の空間変動を引き起こした可能性が高い。偏西風変動は北大西洋の気候変動とも連動していたが、最終氷期における千年スケール変動とは別の要因によって引き起こされた可能性が示唆された。
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