研究概要 |
昨年度(平成19年度)に開発した方法をさらに進展させ, 水素安定同位体比に注目し, 極低濃度域の大気中揮発性有機化合物(VOCs : Volatile Organic Compounds)における個別化合物水素安定同位体比の測定法の開発を目指した。水素は炭素よりも安定同位体比間の質量比の差が大きいため, 発生源の違い等を見るには最適だと考えられる。種々の分析条件等の検討の結果, VOCs26成分の水素安定同位体比を測定することが可能になった。VOCs混合標準ガスの繰り返し分析による分析精度(標準偏差)は, Benzene, Toluene, Ethlbenzene, m, p-Xyleneでそれぞれ1.6‰, 3.5‰, 2.4‰, 1.6‰となり, またその他のほとんどの物質も1.0〜2.0‰程度となった。VOCs中の水素安定同位体比の測定事例がないため直接の比較は出来ないが, 他の物質(メタン等)を対象にした既往の文献と比較しても高精度の測定結果であることがわかった。さらに本手法を用いて自動車排ガス, 一般環境の測定も試みた。前者は12〜14成分, 後者は10成分の測定が可能になった。特に一般環境は濃度が薄いためサンプリングが非常に難しく困難を極めた。炭素の場合は燃焼により, 軽い同位体比の^<12>Cの方が^<13>Cよりも早く反応することが知られているが, 水素の場合は予想と異なり逆にDの方がHよりも早い反応を示す物質があることがわかった。また一般環境の結果では, δD値は-100±40‰以内の収まる物質がほとんどであった。さらに一般環境は自動車排ガスの結果に近く, 自動車の影響を強く受けていることがわかった。今後はさらに測定データを充実させ, 自動車排ガス以外の発生源も測定することで包括的に発生源解析することが可能になると考えられる。
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