研究概要 |
本研究は支笏湖における小型移入魚種(ヌマチチブ)が沿岸域の生態系に与える影響を調査する目的でおこなった。本年度では, 07年度に行なった小型移入種の個体群の年変動および生活史パターンのデータを元にして行なった操作実験の結果を報告する。本実験は08年の7月, 移入魚種および在来魚種の両種が多く存在する調査地点(丸駒)にて, 2種のエンクロージャーA, B(移入種Aと在来種Bの各々の囲い込み区), 1種のエクスクロージャー(魚類不在区), 1種の対象区をそれぞれ8機(縦27×横38×高さ16.5cm目合い0.33mm)を設定した。コンテナは同面積の湖岸の底質を入れ, 設置より3週間後, コンテナ内の藻類, 底生動物, 実験用の魚類を採集し, 各々の実験区が藻類・底生動物を主にした沿岸の生態系に与える影響を調べた。本実験に用いられた移入種のヌマチチブは藻類(胃内容物の90%以上を占めた)を主に餌資源として利用することが明らかになった。また, ヌマチチブの密度に伴ってコンテナ内の藻類の現存量は減少する傾向を示し, 底生動物の体サイズおよび群集構造とその多様性を変化させた。しかし, 移入種と在来種の比較では, 藻類量ならびに総ての底生動物群集の総てのパラメータにおいて, 統計的有意差は示されなかった。本実験より, 小型移入種のヌマチチブは支笏湖沿岸の底生藻類を餌資源として利用し, その現存量を減少させ, 藻類を餌資源として利用する底生動物群集の体サイズ, 群集構成に大きな影響を与えた。この事は, 沿岸の生態系中の生産者である植物の生産性を搾取したと共に, 時差を伴って在来種のアメマスに影響を与えると考えられる。その理由として, 沿岸の底生動物の多くは水生昆虫の幼虫であり, これらの成虫は夏期に在来種であるアメマスの幼魚の重要な餌資源となるので, その餌資源も著しく搾取されていると考えられた。
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