本年度は、サステイナビリティの経済理論として、富(Wealth)およびジェニュイン・セイビング(以下GS)に関する既存研究の整理を行い、環境評価手法を組み入れた新たな発展枠組みを構築した。まず、現状において最も卓越した理論の一つとして、パーサ・ダスグプタの研究を中心に論点と課題をまとめた。これまでの議論からは、経済学的基礎付けのあるサステイナビリティ指標としてはGSが有力であると結論される。しかしながら、GSに関する更なる検討を加えた結果、十分に分析されていない点が明らかとなった。第一に、GSの時系列的な成長経路の変動についてである。従来の研究では、過去数十年の平均のみに着目しているが、新たに各国のGSを計算し直し、それを時系列でプロットしてみたところ、平均でみれば同じ成長率の国であっても、大きく変動しながら成長している国となめらかに成長している国とがあることを発見した。そのうえで、資本の調整コストといった観点から富蓄積のなめらかさをあわせて指標化することに取り組んだ。第二に、データ集計の地理的範囲の恣意性である。この点は、本研究の申請時点から着目していたことだが、実際にデータベース"World Development Indicators"に基づき、集計の地理的範囲を変化させながら再解析を行ない初期結果を得た。 また、GSを計算する上で必須である計算価格(accounting price)について環境評価法を用いて推計するにあたり、その妥当性を測定する手法を研究した。環境評価法は、消費者選好に基づく余剰理論に基礎づけられているが、消費者選好の動揺による評価値の信頼性の揺らぎという大きな弱点を有している。本研究では、選好が動揺する原因として消費者行動の内的メカニズムともいうべき心理的要因に着目し、それを情報処理プロセスというかたちで分析枠組みに入れることにより、選好の安定性を測定することを可能にし、計算価格推定の安定性および妥当性をあわせて評価できるようにした。
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