研究概要 |
本研究では, 日本各地でさまざまな社会・文化的条件のもと発生している獣害問題を対象に, 農家の被害意識構造を解明し, それらを地域比較することで食害という生物学的現象に対して地域住民の被害意識が多様化する社会的要因を明らかにすることを目的としている. 今年度は青森県下北半島で深刻化するニホンザルの農作物被害問題について, 住民の被害意識に影響を与えている社会的要因に関する分析を行った. その結果, 被害農家は日常レベルにおいて許容を伴う複雑な「被害認識」を持っているが, 被害経験を共有しない他者と対峙する場面では, サルに対する否定的価値観だけが表出されやすいこと, またそのような否定的価値観は地域社会において先鋭化され, 捕獲をめぐる意見に収斂されやすいことが明らかになった. しかし, ニホンザルの農作物被害軽減に向けては, 捕獲が必ずしも有効な手法ではなく, このような場合, 施策をめぐって異なる価値観を持つ利害関係者間で意見の対立が生じ, 獣害が社会問題化しやすい状況にあることが判明した. これらの分析により, 地域住民の被害認識の形成に「対人関係」などの社会的要因が強く影響を与えている可能性が示唆される. 今後は獣害発生条件の異なる複数地域を対象に実施したアンケート調査の分析を行い, 鄭良的な手法で地域住民の「被害認識」に影響を与えている社会的要因の抽出を行う. また獣種や社会・文化的条件の異なる地域間比較を行うことで, 住民の被害認識が多様化する要因を考察する.
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