研究概要 |
本研究の目的はマングローブ汽水漁場の持続可能性の条件を漁家世帯の多様な生計活動と意志決定プロセスの中に探ることにある。19年度は以下の項目の現地調査を2008年3月に施した。(1)汽水漁場の過剰利用の実態把握、(2)各世帯の資源利用と経済活動の多様性とそれら世帯生計戦略を支える価値や規範の解明。 具体的には、1996年以来継続的に観察を続けている汽水河口に位置する漁場A(定置網taba15ヶ統)と今回新たに漁場B(20ヶ統)を加え、漁場利用と漁具のロケーション・マップを作成した。またtaba操業世帯についての予備調査を実施した。2003年の状況と比較し、tabaの操業数は約20パーセントの増加を見せている。80年代からすでに認識されていた過剰利用にさらに拍車がかかっていることがわかった。漁具の過剰設置によって漁場の環境は悪化(土壌堆積、漁獲の減少)の一途をたどっているといえよう。また世帯調査によると、約30パーセントが転売などによって操業世帯が変更していることもわかった。 このように、資源の利用に流動性を与える新規漁具の設置による参入と転売による離脱に関する各世帯の意思決定と戦略の理解は、漁場の持続的利用の条件を探る上で欠くことのできない視角となる。これまでのコモンズ研究が、利用者の範囲と利用規制が明確なタイトなコモンズを主に取り上げてきた(Ostrom1990;F. Berkes, 2005)ことに対し本研究は、いわばこれと対照的な事例を取り上げることになる。世帯の多様な生計活動とその意思決定のなかに特定資源の利用管理を位置づける本研究の試みはコモンズ研究に新たな知見を付け加えることになるだろう。
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