研究概要 |
本研究の目的は、マングローブ汽水漁場の持続可能性に関する条件を、漁家世帯の多様な生計活動と意思決定プロセスの中に探ることにある。漁場の過剰利用の実態把握では、汽水河口に設置される定置網tabaに着目した。2003年の状況と比較し、tabaの操業数は約20パーセントの増加と、80年代からすでに認識されていた過剰利用にさらに拍車がかかり、漁具の過剰設置によって漁場の環境は悪化(土壌堆積、漁獲の減少)の一途をたどっていることが分かった。また操業世帯の変化も著しい。資源利用に流動性を与える参入と離脱に関する各世帯の意思決定と戦略の理解は、漁場の持続的利用の条件を探る上で欠くことのできない視角である。併せて、各漁家世帯の生計活動の多様性とそれら世帯生計戦略を支える価値や規範を検討した。利用資源を、生産資源と再生産資源に分類すると、小商い(tiyanggi)が兼業において高い比率を占める(小林2008a、2008b)。また再生産資源としての住資源(小林2009)に着目すると、約7割を占める土地なし世帯は容易な立ち退きと政治的な従属という二重の不安定な地位に置かれ、その状況が生計活動に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。このように、海域資源の持続的利用に当たっては、たんに漁場の権利関係の分析のみならず世帯の多様な生計戦略を視野に入れる必要がある。これまでのコモンズ研究は、利用者の範囲と利用規制が明確なタイトなコモンズを主に取り上げ(Ostrom1990;F.Berkes,2005)、単一の資源を限定的に扱ってきた。しかし多様な資源と資源をまたぐ利用は、日常生活の常態である。世帯の多様な生計活動とその意思決定のなかに、特定資源の利用管理を位置づける本研究の試みはコモンズ研究に新たな知見を付け加えることになるはずである。
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