研究概要 |
認知機能の低下は, 脳腫瘍や小児白血病における放射線療法に限らず肺がんにおける化学療法においても生じる副作用の一つである。19年度において, 炭素線および陽子線を脳局所に照射した脳腫瘍治療モデル動物の場合, 晩発期では実際の治療線量の1/2-1/3線量である15-30Gyの照射により, 記憶の獲得過程の障害が生じることを明らかにし, またその障害の要因として, 海馬神経細胞数の選択的な減少が関連していることを示唆した。一方, 照射早期においては, 短期(作業)記憶の障害が1-10Gyの比較的少ない線量で生じることを明らかにした。さらに新たに確立した脳の毛細血管の画像化技術を利用し定量を試みたところ, 照射1週間後の比較的早期に海馬領域の毛細血管数の低下が生じることを初めて成功した。これらの結果によって, 脳腫瘍および小児白血病の放射線治療によって, 記憶の形成に重要な役割を担う海馬の選択的な細胞死が毛細血管の減少により誘導され, それに伴い早期および晩発期に認知機能の低下を生じさせることが推察された。臨床的には, 脳腫瘍近傍の正常組織には, 再発を予防する目的で治療線量の1/2〜1/3線量が照射されることになるが, 脳腫瘍治療時には海馬を除外した照射方法の確立が重要であることを示唆している。さらに新たに確立した脳の毛細血管の画像化技術によって, 粒子線(陽子線および重粒子線)の治療線量を推定する際のキーワードとなるRBE(生物学的効果比)の算出する指標にも利用できる可能性が推察された。20年度において, その定量性を実証するため, 放射線照射後の腫瘍および他の正常組織障害の診断法との対照実験を行なった。その結果, 患者のQOLの向上には, 毛細血管密度を指標とした脳機能障害を誘発しない線量推定と, PETによる物理的診断法による腫瘍治療線量の推定が重要であることが推察された。
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