本研究では、包摂ホスト分子チアカリックスアレーンの金属錯体を基にして新規人工分解酵素を調製し、さらに捕集媒体と複合化することにより、水中の汚染物質を捕集してそのまま分解・無害化できる高効率な環境浄化システムの構築を目的としている。本年度は以下の事項について研究を進めた。 まず、チアカリックスアレーンのセリウム錯体について、リン酸エステルの加水分解に対する触媒作用を検討した。その結果、セリウム錯体の存在により分解反応は触媒的に加速され、これは特に二核錯体を用いた場合に顕著であった。天然の金属酵素と同様に、近接した位置に配位した二つの金属イオンが協同的に基質に作用し、効率的に反応を触媒しているものと考えられる。これはイムノアッセイにおける発色反応への応用が可能であった。 一方、界面活性剤ミセルは反対電荷に帯電した固相表面に吸着しアドミセルを形成する。アドミセルを分散させた溶液の下部から細かい気泡を導入したところ、アドミセルは気泡表面に付着し速やかに液面に浮上して回収された(気泡分離)。また、水中の疎水性化合物(金属錯体)はアドミセルに取り込まれ、気泡分離により迅速に回収された。 以上より、チアカリックスアレーンーセリウム錯体をアドミセルに組み込むことにより、物質捕集と分解反応を効率的に行うことが可能な環境浄化材料を調製し、さらに使用済み材料を迅速に回収する高効率な環境浄化システムを構築できるものと考えられ、今後のシステム設計の指針が得られた。
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