現在用いられている貴金属の回収技術には、沈殿法、溶媒抽出法、樹脂による回収などがある。沈殿法は、操作が簡便で、pHの調製のみで分離できるという利点をもつ。しかしながら、沈殿法は選択性が低いため、ろ過、再沈殿を何度も繰り返さなければならず、回収の効率が悪いという欠点がある。また、処理の際に多量に排出されるスラッジの処理が深刻な問題となっている。一方、従来多く用いられている技術として溶媒抽出法がある。抽出剤分子が貴金属に対して選択的に働く特徴をもち、逆抽出によるターゲットの回収、濃縮も容易である。しかし、従来の溶媒抽出技術では溶媒を多用するため、環境に負荷を与える可能性がある。樹脂による吸着除去は、溶媒を用いることもなく、環境に負荷をかける心配はない。しかしながら細孔内での拡散が律速段階となることが多く、平衡に達するまで時間がかかるのが難点である。 そこで本研究では、溶媒抽出技術の特色を生かしながら、樹脂の欠点を補うことができる、溶媒を用いる必要のない、環境にやさしい貴金属回収力プセルを提案する。 H19年度は、抽出剤として配位子にメルカプトエタノールをコア部分に固定化して貴金属に高選択性を示すチオエーテル基を導入することができた。硫黄原子が貴金属に対して高い選択性を有していることは、これまでの我々の研究成果より明らかとなっているが、配位子にメルカプトエタノールを有したポリアクリル酸の調製に成功し、パラジウム、白金、ロジウムなどの貴金属を重金属に対して選択的に抽出することに成功した。 また、貴金属に高い選択性をもつ、本研究室で新規に合成した抽出剤を用いて、抽出剤の漏洩のないような含浸樹脂の合成に成功した。含浸樹脂にした場合は抽出剤として使用したときと比較して選択性が悪くなることが知られているが、この樹脂は抽出剤の選択性と同じ選択性をもつことが明らかとなった。
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