研究概要 |
強磁性体の内部磁場は非常に大きいため、磁場効果・磁気効果を検討する場として強磁性体内部は非常に魅力的な反応場といえる。本研究の目的は、「構造設計可能な分子性磁性体を用いたナノ磁性空間を構築し、孤立微小空間における新しい磁場特異的反応を探索し、その現象解明を行うこと」である。ナノ磁性構造体の構築には構造設計性に優れた金属錯体を用いることとし、特に三次元ホストに比べ構造に自由度があり、層構造を保ったまま様々なゲストを包接可能な二次元層状化合物をホスト化合物として用いることとした。現在までに、合成手法として水熱合成法を用い、ゲスト分子として12種類のL-アミノ酸及び3種類のDL-アミノ酸を用いたコバルト層状水酸化物の合成に成功しており、L-Glu及びDL-Gluをゲストとするコバルト層状水酸化物は転移温度それぞれ9.8K, 11.0Kの強磁性体であった。本年度はさらに水熱合成法を用いた転移温度10K以上の強磁性またはフェリ磁性超分子体の探索を行うとともに前述のL-Glu及びDL-Gluコバルト水酸化物の構造及び物性について検討し、単結晶作成を試みた。L-Gluコバルト水酸化物は粉末X線回折の結果期待される層構造を有し、CD及びMCD共に活性であることが示された。単結晶が作成できればMChDの観測も期待できるため有望であり、引き続き単結晶作成・光反応と続けて行く予定である。また本年度は新たな磁性ホスト化合物として、有機ラジカルを架橋配位子とする二次元層状磁性体も用いることとした。一般に有機ラジカルを架橋配位子とする分子性磁性体は転移温度が低く、本研究に必要な転移温度以下での化学反応の実行・観察には困難が伴うと考えられる。しかしながら研究代表者が本年度報告した有機層状磁性体は転移温度65-72Kと非常に高く、脂肪族および芳香族炭化水素化合物を包接しており、さらに単結晶作成も比較的容易であることから本研究目的達成に非常に有望である。今後、この有機層状磁性体反応活性のあるゲスト分子を包接させることを検討していく。
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