研究概要 |
カーボンナノチューブはダイヤモンドに匹敵する高い熱伝導率を有することが理論的に予測されており放熱材料の有力候補として期待されている.しかしながら,放熱材料として用いられるカーボンナノチューブの熱伝導率の測定値は理論値よりも随分と小さく,放熱材料としてのカーボンナノチューブの潜在能力を十分に発揮できていない.本研究では,カーボンナノチューブ本来の高い熱伝導性を活かした高性能放熱デバイスの実現を目指し,カーボンナノチューブの熱伝導性を低下させる熱抵抗の要因についての理論研究を行う.今年度は、熱伝導低下の要因の1つと考えられる「欠陥」の影響について詳しく調べた。欠陥の種類としては、原子空孔欠陥、ストーン・ウェルズ(SW)欠陥、C^<13>同位体について調べた。これらの欠陥の中でも原子空孔欠陥が室温熱伝導率を最も低下させることが分子動力学シミュレーションによって明らかとなった。また、原子空孔欠陥の濃度増加にともない急激に熱伝導の減少が起こり、僅か1%の欠陥濃度で純粋なナノチューブの熱伝導率の半分にまで低下することが明らかとなった。原子空孔欠陥による熱伝導率低下のメカニズムを明らかにするために原子振動解析を行った結果、原子空孔欠陥周りの結合の切断された3つの炭素原子が激しく振動することが明らかとなった。より正確な言い方をすると、欠陥周りに出現した局在フォノン状態によって熱浴から入射されたフォノンが共鳴後方散乱されることによって熱伝導率が低下したことが明らかとなった。この後方共鳴散乱確率を減少させるためには原子空孔欠陥を取り除く必要がある。そこで原子空孔を含むナノチューブをアニーリングし、原子空孔欠陥を他の欠陥へと構造変化させた。その結果、局所振動は解消し熱伝導率が向上することも分かった。
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