本研究では期間内(平成19年度〜平成21年度)に、カーボンナノチューブの熱伝導に関する以下の課題について理論的研究を推進する。 (1) カーボンナノチューブ中の欠陥の影響 (2) 電子デバイスとカーボンナノチューブの境界での接触熱抵抗 (3) カーボンナノチューブから外部環境への熱拡散効果 (4) フォノン-フォノン散乱によるフォノン崩壊の影響 平成20年度は特に課題(2)、(4)で顕著な成果を挙げることができた。 課題(2) : デバイスとの接触によりナノチューブは湾曲して用いることが多いため、湾曲変形による熱伝導への影響を分子動力学法によって調べた。その結果、カーボンナノチューブの熱伝導率は湾曲変形に対してほとんど影響を受けないことが明らかとなった。これはカーボンナノチューブがフォノン導波管として機能することを意味する。 課題(4) : カーボンナノチューブの熱流の担い手であるフォノンは、室温においてさえも1ミクロンメートル程度の長い平均自由行程をもつ。その長さはデバイスで用いられるナノチューブの典型的長さと同程度であるために、ナノチューブの室温熱伝導を論じる際には、バリスティックなフォノンと拡散的フォノンの共存状態での熱輸送を記述する理論が必要である。本研究では、そのような共存状態を記述する熱伝導解析手法を構築し、それをナノチューブに応用することによって、ナノチューブの熱伝導率がチューブの長さと直径に強く依存すること、すなわち、細くて長いチューブほど高い熱伝導性を有することを明らかにした。
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