ナノスケールの物質や構造を制御して構築する技術は、ナノテクノロジー推進の基盤であり、次世代高機能材料を設計するための必須技術である。本研究は、人工ポリペプチドの自己組織化によるナノ構造形成に焦点を合わせ、分子構造の精密設計に基づいてナノファイバーの微細構造を制御するという新しいボトムアップ型の分子論の確立を目指している。これまでの研究で、疎水性のロイシン(L)と親水性のリシン(K)からなるトリブロック型ペプチド(L_4K_8L_4)が特定の条件下(pH9付近)で自己集合し、ナノファイバーを形成することを見出している。本年度は、このアミノ酸配列を基本に、キラリティーや疎水性アミノ酸種の異なる両親媒性ペプチドや分岐構造を導入したペプチドを新規に分子設計・合成し、二次構造や自己集合特性を明らかにした。 主たる研究成果を以下にまとめる。 (1)D体およびL体のロイシンとリシンを様々に組み合わせた8種類のL_4K_8L_4、ならびに疎水性アミノ酸種としてイソロイシン、フェニルアラニン、アラニンを用いたI_4K_8I_4、F_4K_8F_4、A_4K_8A_4を新規に合成することに成功した。 (2)構成アミノ酸のキラリティーの異なる8種類のL_4K_8L_4と同一キラリティーを有する2種類のL_4K_8L_4の水中(pH9)での自己集合特性を明らかにし、構成アミノ酸のキラリティーの組み合わせを様々に変化させることで、得られる自己組織構造の形態(ファイバー状、球状、プレート状)やナノファイバー長を制御できることを見いだした。 (3)Lysを分岐点に用いてL_4K_8L_4を三本結合させた三分岐型ペプチド(K-(L_4K_8L_4)_3)の新規合成に成功し、これがpH9付近の水中で折れ曲がり構造を含む形状特異ナノファイバーを形成することを見出した。
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