本研究の全体構想は、生体内物質輸送を担っているモータタンパク質の駆動系をマイクロ・ナノデバイス内で再構築することによって、キネシンとダイニンの運動によりナノスケールの対象分子などを大量・並列に操作できるナノアクチュエータを創製することである。平成19年度は、以下の二点について研究を実施した。 (1)キネシンとダイニンによるビーズ搬送系の確立 従来のキネシンによるビーズの搬送では、Poly-L-Lysineで固定した微小管上において80%以上の駆動率を実現してきた。本研究で新たに導入したダイニンについても、バッファ条件、ダイニンとビーズの混合比率などを最適化することで80%程度の駆動率を実現した。さらに、キネシンとダイニンを付加した直径320nmおよび500nmのビーズを同時に微小管上で駆動することを可能にした。モータタンパク質を大過剰にビーズに付加することで、搬送効率を上昇させると共に、搬送距離についても生物物理学分野で検討されている1分子による搬送よりも2〜3倍程度増大させることができた。 (2)微小流体デバイスの製作と利用 マイクロ流路内においてビーズのソーティングをおこなうためのデバイス開発をおこなった。倒立型蛍光顕微鏡下で微小管とビーズの観察をおこなうため、流路の底面にはカバーガラス(24x60 mm)、上面にはPDMSを用いた。ここで、PDMSは厚膜レジストSU-8を用いたモールディングにより製作し、ガラスに接着した。このマイクロ流路内に、既に確立した微小管の配向技術(基盤(B)17310082)を用いて微小管を配置し、キネシンとダイニンを付加したビーズの駆動方向の解析をおこなった。この結果、それぞれのモータタンパク質によって独立にビーズが搬送されていることがわかり、今後分子搬送とソーティングへの展開を図る。
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