当該年度には、細胞電気泳動度(ゼータ電位)を高精度に計測するためのデバイス表面処理技術について検討し、このデバイスを用いて細胞剥離剤を作用させたHeLa細胞の細胞電気泳動度の変化について検討した。この成果は学術誌に論文発表した。 細胞電気泳動用マイクロ流体デバイスの材料には、電気絶縁性に優れ、光学的ひずみのないポリマーであるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いた。PDMS製デバイスを細胞計測に用いる場合には、表面の親水化とタンパク質吸着の抑制が必要である。今回は、真空紫外光(VUV)を用いて、バイオミメティックポリマーであるMPCポリマーをPDMS表面にコーティングする技術について検討した。コーティングの効果は水滴接触角減少とタンパク質吸着抑制能を指標にして評価された。更に、本デバイスを用いた細胞電気泳動実験の結果から、従来のデバイスと比較して正確な細胞電気泳動度の計測が簡単に実現できることが分かった。 次に、このデバイスを用いて、細胞剥離剤(トリプシン)処理後のHeLa細胞の細胞電気泳動度を測定した。トリプシン処理後のHeLa細胞の表面は、顕微鏡観察では大きな変化が認められなかったが、再播種後の細胞増殖が抑制されるなど、細胞へのダメージがあることが認められた。さらに、トリプシン処理時間の増加に伴って細胞電気泳動度が減少し、トリプシンによる細胞へのダメージが細胞電気泳動度を計測することによって評価できる可能性が示された。
|