本研究課題では、数百人規模のエージェントが存在するような大規模コールセンターにおける性能評価指標(平均応答時間、応答時間の分布、待ち率、待ち合わせ放棄率、話中遭遇率、エージェントの稼働率etc.)を定量化することを目的とした。コールセンターの性能解析手法では、アーランの損失式(Erlang-B公式)や、アーランの待ち合わせ評価式(Erlang-C公式)を用いることが一般的であるが、本研究課題ではコールセンターの特徴を詳細に捉え、より現実的なモデルに基づいていることに意義がある。特に、エージェントが従事する後処理業務、および客の待ち合わせ放棄の2点を取り込んだマルコフ連鎖に基づく点に特徴を有する。大規模化に伴いマルコフ連鎖を特徴付ける推移速度行列のサイズが増大するため、計算機での数値計算が不安定になることが知られている。そこで本研究では、マルコフ連鎖を特徴付ける推移速度行列にブロック三重対角構造と呼ばれる特殊な構造を導入し効率化を図り、さらに縮約/非縮約法に代表される大規模なマルコフ連鎖を数値的に解く手法を適用し数値計算の安定化を試みた。以上の手法に基づき、数値計算上の性質について次の知見が得られた。(1) エージェント数が200人程度の場合なら縮約/非縮約法を適用すると、安定した数値計算結果が得られる。(2)推移速度行列のブロック三重対角構造を生かし計算の際に逆行列の計算を伴わないreplacement process approachと呼ばれる手法を適用すると数値計算がさらに安定化し、規模を大きくすることができる。さらに、当該手法を用いて分析した結果、コールセンターを設計する際に有用となる次の知見が得られた。(3)大規模化してもエージェントの後処理業務時間が待ち率などに与える影響は無視できず、後処理業務時間を積極的にモデル化することが重要である。(4)客の待ち合わせ放棄時間の分布形は待ち率などの指標に大きく影響し、単純に指数分布で近似すると過小評価する。
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