近年の科学技術の進歩に伴い、システムが巨大化・複雑化している今日、事故や故障による社会的損害は計り知れない。故障を防ぐにはシステムの構成要素である部品一つ一つの耐久性を向上させるとともに、そのシステムの運用段階において監視装置(モニター)を用いた予兆情報などにより故障を事前に抑えることが重要となる。 本研究は対象システムがマルコフ劣化し、その内部状態が直接把握できず、モニターの観測値に基づき、真の状態を推測する部分的に観測可能なマルコフ過程(POM)P)における状態監視保全の最適保全方策を検討した。状態推移確率行列PがSIの性質を持つ場合、システムの状態と観測値を関連付ける条件付き確率行列Гが単位行列であることは、最適保全方策がControl limit policyにより与えられる為の必要十分条件であることが証明でき、この条件をこれ以上緩めることは出来ないことが判明した。現実には、Гが単位行列(完壁なモニター)という条件は実現しにくい。従って、Pの性質の判定、ならびにPがSIではなく、TP_2(Totally Positive of order 2)となる為の対象システムに関する故障のメカニズム(物理的・化学的変化)の条件やシステムの構造の条件を明確化することが重要であることが判った。POMDPモデルは状態監視保全において、Control limit policyが成立するためのPがTP_2に従うという条件をSIに緩めることはこの四半世紀以上にわたって世界中の多くの研究者が挑戦してきたものである。本研究はこのテーマに対する理論的な最終結論を与えたものである。今回の研究成果を7thアジア品質管理シンポジウム国際会議(7th ANQ Congress Tokyo)にて発表し、2009年度The Best Paper Award受賞した。
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