研究概要 |
本研究では、属性を有する資産と金融資産の価値評価を行った。属性を有する資産の典型例は不動産であり、住居・オフィス・商業などの用途として、これを利用することができる。不動産利用者は、不動産が提供する「属性の束」を享受することができ、その対価として賃料を支払う。一方、不動産所有者は、賃料を受取ることができ、また、売却すればその売却額を受取ることができる。このとき、金融資産に加えて、不動産の利用権と所有権に関する取引市場を定義した上で、キャッシュと資産属性という2つの消費から得られる効用最大化により達成される均衡条件として、資産価値評価式を導出した。 そして、資産価格のリスク要因を探るべく、「レジーム・スイッチング」あるいは隠れマルコフと呼ばれるモデルを導入した因子分析である「レジーム・スイッチング因子分析」について、その統計的手法を提案した.併せて, これをJ-REIT(不動産投資信託)に適用した実証分析を行った。レジーム・スイッチング因子分析の目的は、資産価格のみからそのリスク要因を抽出することにある。その次元数は、分析対象とする資産数よりも少ないことが期待される。さらに、そのリスク要因が、市場の背後にある見えざる経済レジームによって異なったものにスイッチングしうることを考慮した。具体的には、レジーム・スイッチング因子分析のモデルを設定した後に、その推定方法を導出した。併せて、推定量の誤差評価についても言及した。 続いて、レジーム・スイッチング因子分析により、J-REIT市場において資産間で共有するリスク要因を、見えざる経済状態に応じて検出できるのか、という実証分析を行った。その結果、レジーム・スイッチング因子分析は、通常の因子分析よりも、資産価格のリスク構造を統計的にうまく説明できることを示した。
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