研究概要 |
本研究では,航空機および宇宙基地などで用いられる「低圧閉鎖空間」における火災危険性に関する基礎知見を得ることを目的とする.これまでの実験によれば,低圧場においては常圧場よりも少ない酸素分圧で自発着火が達成されることを明らかにしたが,その着火促進が熱輸送などの物理過程で支配されるのか,それとも化学反応などの化学過程に支配されるのかが十分に理解できないでいた.本課題ではこの理解を深めることに特化し,実験および解析の両面から設定目標を達成しようとするものである. まず当該年度においては,従来のようにろ紙を垂直に配置するのではなく,ろ紙を水平に配置して「時間発展型のよどみ点流れ場での自発着火」を対象系とするように実験システムを改善した.これにより解析解との検証が容易に可能となる.実験結果によれば,消炎限界付近の圧力値(30kPa付近)で低酸素状態のときには,通常とは異なる着火の振る舞いをすることが示された.そこ以外の条件においては,古典論における自発着火問題として有名なLinan & Crespoによる漸近解析(拡散による混合場での着火),Niiokaによる漸近解析(淀み点流れ場中での着火)で示される2つの着火モードの組み合わせで説明できることがわかった.着火時間が短いと拡散支配の混合着火に属し,着火時間が長い状況では淀み点流れ場が十分に発達して淀み点流れ場の着火特性が顕在化してくる.この状態を3次元非定常数値計算により再現することに成功し,前述の消炎限界付近以外は熱輸送が支配する着火であり,過去の理論が適用できる範囲であることを明らかにした.理論解および数値計算ではラジカルの効果を含めていないため,消炎付近の不可解な振る舞いはラジカルに起因する化学的作用である可能性について言及した.これらの結果は国際会議で発表し,selected paperとして採択されて論文化された.
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