研究概要 |
本研究は, 航空機および宇宙基地などで用いられる「低圧閉鎖空間」における火災危険性に関する基礎知見を得ることを目的としている. これまでの研究において, 低圧場においては常圧場よりも少ない酸素分圧で自発着火が達成されることを実験的に示すことに成功したものの, その着火促進が熱輸送などの物理過程で支配されるのか, それとも化学反応などの化学過程に支配されるのかが十分に理解できないでいた. 本課題ではこの理解を深めることに特化し, 実験および解析の両面から設定目標を達成しようとするものである. 前年度において, 実験的に自発着火マップを作成し, 低圧着火限界付近以外は2つの漸近解析結果によく一致することを示した. つまり分子が十分に存在する領域では, 着火の有無は古典論によりよく記述でき, 物理過程が支配する問題であることがわかった. 問題として残されたのが, 化学過程がより支配的となる低圧着火限界付近の振る舞いを理解することであった. 本年度はこれを解明することに注力したが, 着火以前のラジカル発光が極めて微弱であるため, 増幅器を備えた検知器が必要であることがわかった. よってこの追求は本資金では賄えず, ひとまず見送ることを余儀なくされた. 代わりとして電線被覆材の低圧場での強制着火の観察, ならびに解析的に着火限界付近で自発着火を再現できる反応モデルに関する検討を実施した. 後者については最後は3次元解析の実施を想定し, 複数の簡略化素反応機構を対象とした. この解析にはポストドクターの協力を得た. その結果, 多くの簡略化素反応機構では微小ラジカルの時間推移生成量を過小評価しており, 安定燃焼の予測には使えるものの, 着火時の正確な振る舞いを予測するには不十分であることがわかった. これらの成果は論文などの業績にはならないが, 次のステージに向けて必要な検討内容を含んでおり, 極めて貴重な成果であると考える.
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