沖合リアルタイム観測点における津波観測指標を検討するため、2006年11月15日に千島列島沖で発生した地震を対象として、既存の「釧路・十勝沖海底観測システム」に含まれる海底津波計ならびに先端観測ステーションに接続されているADCP(音響層別流速計)および深海底カメラ観測で得られた知見を報告した。またUSGSの断層モデルから津波の再現計算と現場観測との比較・検討を行い、既存システムによる津波早期検知の可能性について検討した.「海底観測システム」には海底ケーブルで接続された常時2台の海底津波計が設置されている。それに加えて、2004年から海底津波計を1台追加設置していた。津波観測点において地震発生から約1時間後に周期約30分の津波第一波が観測された。津波第一波の振幅は5hPa、すなわち静水圧換算で5cmとなっている。USGSの断層モデルから計算した津波は、観測値と比べて到達時刻については約5分ほどが早くなったが、振幅についてはほぼ再現できた。なおわが国で最も震源に近い北海道根室市花咲の検潮所より、10分以上前に津波初動を観測した。また先端ステーションにはADCPが接続されている。ADCPは30分に一度起動して海底から最大高さ280mの流速ベクトル分布を観測する。結果として、地震発生時および津波到達時において深海底での顕著な流速変化は認められなかった。津波波高と水深から理論的に計算される流速は0.3cm/sであり、これはADCPの観測可能範囲の下限である1cm/sより小さかったためである。数値計算でもADCP設置点の海底における流速は最大で0.1cm/sとなり、ADCPの観測範囲外となった。さらに津波通過時の深海カメラ映像も平常時と比べて、顕著な環境変化は認められなかった。この研究成果は、国内誌に掲載された。
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