本年度は、いまだリアルタイムデータの具体的な利用法が確立されていない、津波観測監視システム近傍で発生する津波の水圧計データ利用方法を提案するため、海底津波計の蓄積データを精査して得られた知見を整理した。 北海道十勝沖の水深約2200mの海底に設置している2台の海底津波計を対象として、まず海底津波計近傍の海域で発生した地震の抽出を行った。抽出対象となる地震は、気象庁の一元化震源データを参照し、観測システムから概ね100km以内の震源とした。また、水圧データのS/N比から地震の規模は、M6以上のものを対象とした。その結果、2003年以降の15地震が抽出対象の地震となった。水圧計センサーは感圧水晶と温度水晶の振動数を計測しており、温度補正を施して10Hzサンプルの水圧データを作成した。作成したデータに対して地震を含む5分間のデータを切り出し、ランニングスペクトル解析を施した。津波を発生させる地震では、周波数0.1~0.2Hzの成分が卓越し、継続時間が20秒程度の水圧変動が観測される。これは地殻変動による音響波が水深で一意に決まる固有周波数と一致する。一方、津波を発生させない地震でも0.1~0.2Hzに卓越周波数をもつが、より高周波帯域の地震動による水圧変動と同程度あるいはそれ以下の振幅である。 震源近傍の水圧計は地震動の高周波成分の影響を強く受けるために、地殻変動成分の分離は困難であるが、津波発生時に卓越する音響波は明瞭に分離できる。この音響波の振幅はマグニチュード依存性があり、津波発生時には地震動に起因する水圧変動よりも卓越するので、周波数(周期)に注目して水圧変動を監視すれば、津波の早期検知に利用できる。またその振幅は理論的には速度に比例するので、震源近傍に多点観測点を構築できれば地殻変動量の分布、すなわち津波の初期波形も見積もることが可能であることを示した。
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