本研究の目的は、都市域においてソフト的な水防災政策を実施した場合に生じる便益(水災害被害額の減少)と費用(平常時における利便性・快適性の低下)を定量的に評価し、ソフト的水防災政策の費用対効果・妥当性について検討することである。当該年度は、水災害危険度に基づく建築規制政策、ならびに、雨水流出抑制対策と土地利用規制政策を組み合わせた場合の費用便益を評価した。建築規制政策に関しては、雨水氾濫モデルを用いてそれぞれの地域で豪雨時に予想される浸水深を算出し、その値に基づいて住宅のかさ上げを行なった場合の正の便益(水災害被害額の減少)と負の便益(平常時における利便性等の低下・家賃の上昇)を金銭的に評価した。また、雨水流出抑制対策と土地利用規制政策の組み合わせに関しては、雨水流出抑制施設を(1)すべての公共施設に設置した場合、(2)すべての宅地域に設置した場合の氾濫域を雨水氾濫モデルで算定し、その結果に基づいて土地利用規制を実施した場合の費用便益を雨水流出抑制施設の設置に要した費用も含めて評価した。その結果、建築規制政策については、本研究で対象とした、大阪地域、東京地域のいずれにおいても、今回検討した範囲では総便益が正となり、建築規制政策は水防災対策として一定程度の適用性を有していることが明らかとなった。また雨水流出抑制対策と土地利用規制政策の組み合わせについては、雨水流出抑制対策の効果が設置に要する費用に比べてあまり大きくなく、全体としては大きなメリットのないことが明らかとなった。
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