地震災害時における人的・物的被害を最小限に軽減する医療ロジスティクスの提案を主たる目的として、地震災害時の傷病者搬送を考慮可能なマルチエージェントシミュレーション(MAS)モデルを構築すべく、初年度は、(1)災害時における傷病者搬送に関係する個人または組織等(=エージェント)の活動を調査・分析し、その活動内容を定量的に評価・モデル化する、(2)モデル化した各エージェントの活動を再現可能なMASモデルを構築することを目的とした。 まずエージェントのモデル化については、地震災害において想定されるエージェント機関のうち、本研究では特に傷病者搬送に注目することから、(1)傷病者、(2)消防機関、(3)自衛隊(陸・海・空)、(4)医療機関、(5)地方自治体をエージェントとしてモデル化した。モデル化の方法は、過去に地震被害を経験したエージェント機関についての文献および関係者からのヒアリング調査による。特に2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震における各エージェント機関の活動に基づき、モデルの構築を行った。 傷病者搬送について、新潟県中越沖地震で律速段階となったのは傷病者の搬送先選定であった。そこで本研究では、重篤者の搬送先選定方法として、(1)被災病院到着DMATの所属病院に搬送する場合、(2)被災地外の受入可能な病院に最初から搬送する場合の2ケースを想定した。また災害時に被災地内の医療を支援するDMATの所属病院出発時間もパラメタとして想定した。県内は自主判断とし、県外は要請のタイミングをパラメタとした。柏崎市内に発生した重篤者30名を域外に搬送するケースについてシミュレーションを行った結果、(1)のケースについては、DMATの到着が遅れるほど重篤者の搬送完了時間が遅れるころ、(3)のケースについては、今回の重篤者数の範囲ではDMATの到着時間の遅れは重篤者の搬送完了時間に影響をほとんど与えないことが確認できた。
|