研究概要 |
本研究の特色は、ラットやマウスの肝発がんにおける前がん病変及び肝臓腫瘍における蛋白質発現パターンの相違や、実際に発現している蛋白・ペプチドの差異に注目し、その機序の解明を試みることである。以前我々は、ラット肝発がんにおける前がん病変マーカーであるGST-P陽性細胞巣及び肝臓腫瘍のプロテオーム解析を行ったところ、cytokeratin8(CK8)及びcytokeratin18(CK18)の発現増加が認められ、CK8/18は、ラットの肝発がんにおいて腫瘍に進展するGST-P陽性細胞巣内のマーカーとなる可能性が示唆された。 今回、14日齢雄性B6C3F1マウスにdiethylnitrosamine(DEN)を10mg/kg bw腹腔内投与し、実験開始後18週及び38週で動物を屠殺し、SELDI ProteinChip Array及びQSTAR Elite LC-MS/MS解析を比較しながら蛋白・ペプチド発現解析を行ったプロテオーム解析を行った。 SELDI ProteinChip解析結果による、CK8/18は肝臓の前がん病変(好塩基性細胞巣)及び肝臓腫瘍の有用なバイオマーカーになりうる可能性が示唆された。さらに、QSTAR Elite LC-MS/MS及びProteinPilot Softwareの結果によりDEN投与による肝細胞癌内に35個の特異的な蛋白・ペプチド(例、BCL2-associated athanogene, laminin alpha3など)の発現が認められた。また、免疫組織染色により、好塩基性細胞巣及び肝臓腫瘍におけるCK8/18及びapolipoprotein Al(APOA1)の過剰発現が認められた。さらに、CK8/18陽性細胞巣の中に細胞増殖マーカーである、PCNA陽性な細胞の数が増加していることが明らかになった。その結果によりDEN投与の肝発がんにおけるCK8/18及びAPOA1はマウスの前がん病変の新たなマーカーであることが示唆された。
|