作物の安定生産は、人口増加に伴う食糧危機を回避する一つの手段として重要な課題である。長年の交配による抵抗性品種の選抜育成および様々な農薬の開発にも関わらず、現在でも約3割の作物が、細菌、カビ、線虫、ウィルス、昆虫等の植物病原体や雑草の被害により失われている。その解決策として本研究は、植物の病害抵抗性に関与するタンパク質をプロテオミクス的解析手法を用いて同定・解析することで植物病害抵抗性の分子機構の理解を深め、得られた知見に基づく効率的な品種改良により、農薬にも頼らない持続的な耐病性作物の作出を目指す。 本研究は病原体接種時にユビキチン修飾が誘導される植物側の因子の網羅的解析を目的としている。比較修飾プロテオーム解析の遂行には、1)網羅的解析用への液体クロマトグラフィー-質量分析器(LC-MS)システムの最適化、2)修飾タンパク質の精製法の確立、3)LC-MSを用いた比較定量解析法の確立、が主要な研究課題となる。リン酸化タンパク質の精製法がユビキチン化タンパク質の精製法と比較して既により確立されていることより、まず病原体接種時のリン酸化の比較変動解析を通じて1)3)を試みた。その成果として、LC-MSシステムの最適化および安定同位体標識による比較定量法の確立に成功したことに加えて、植物で初めてタンパク質のリン酸化状態の包括的な解析に成功し、論文としてまとめて投稿した。また、ユビキチン化タンパク質の精製法の和文総説を発表した。
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