本研究では、Nocardia farcinicaのゲノム解析より見いだされた、シデロフォア生合成遺伝子と推定されるnbtクラスターによってnocobactinが生産されていることを遺伝子解析等により証明し、さらに生合成経路の改変等による新規化合物の生産を目的としている。 nbtクラスターの解析に関しては、2008年度に作成したnbt遺伝子(nbtAおよびnbtE)の破壊株およびそれぞれの相補株におけるnocobactinの生産性の確認するために、これらの株の生産物をHPLCにて解析した。nbtAおよびnbtE破壊株では、野生株にみられるnocobactinのピークが検出されなかった。さらに、nocobactin生合成の初発物質であるサリチル酸は、nbtAおよびnbtEの破壊株において検出され、野生株と比較して生産量の増加が見られた。また、これらの相補株では、nocobactinの生産が回復した。以上の結果から、nbtAおよびnbtE遺伝子は、nocobactinの生産に必要であることが示唆された。さらに、nbtE破壊株では、nocobactinとは異なる保持時間に、新たなピークが観察された。このピークのUVスペクトルはnocobactinと同じであり、HRMSおよびMS/MSの解析の結果からnocobactin生合成段階の中間体と考えられた。 生合成経路の改変等による新規化合物の生産に関しては、サリチル酸の生合成酵素をコードするnbtS破壊株とサリチル酸アナログを用いたmutasynthesisを試みた。サリチル酸アナログのうち数種類の化合物は取り込まれ、新たな化合物の生産が確認された。それらの新たな化合物の分子量は、アナログ化合物が取り込まれた化合物の予想分子量と一致した。このことから、mutasynthesisを用いて、新たな化合物の生産が可能であるという知見が得られた。一方で、これらの化合物の生産性は、nocobactinの生産と比較して悪いことから、化合物自体の毒性やサリチル酸アナログ化合物の生合成酵素への取り込み効率等の改良が必要であると考えられた。
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