研究概要 |
これまでの予備実験から,抗菌性物質FR-900848の生合成中間体は(1R,2R)-2-methyl-1-cyclopropane-carboxylic acid(1)と予想された。次に,実,験で生産菌に投与した中間体化合物が生体内で代謝された後に取り込まれた可能性を否定するため,分子内の2カ所を重水素標識した中間体アナログを投与実験に供することにした。重水素標識体の合成を種々検討した結果,1のメチル基および2位の標識化合物を以下のように調製した。2-propyne-1-olから3段階で[4,4,4-^2H_3]-2-butyne-1-olを合成し,続くLiAIH_4還元の後に重水処理することで[3,4,4,4-^2H_4]-2-butene-1-olを得た。既知の方法によりシクロプロパン環を導入後,RuCl_3酸化により(1R,2R)-[2-^2H]-2-[^2H_3]methyl-1-cyclopropanecarboxylic acidを合成した。メチル基および2位の重水素化率はそれぞれ>99%,55%となった。これをSNAC(N-acelyl cysteamine)エステルに変換後,FR-900848生産菌であるStreptoverticillium fervensに投与して培養し,生成したFR-900848の重水素NMRを測定したところ,標識位置に対応する化学シフトにシグナルが2本観測された。また積分値はメチル基:2位=6.8:1となり,合成中間体アナログの重水素化率を反映した結果となった。 以上のように,重水素化シクロプロパン中間体の合成方法を確立し,またFR-900848生産菌への投与実験により,合成中間体が代謝による分解を経由せずに直接FR-900848の生合成経路に取り込まれることが初めて確認された。本結果は,生合成におけるポリケタイド伸長反応と平行してシクロプロパン環が構築されることを示しており,今後,FR-900848の生合成酵素遺伝子を探索するうえでも重要な情報となる。
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