前年度までに明らかにされたFR-900848の生合成経路から推測すると、目的遺伝子のうち、脂肪酸部位はポリケタイド合成酵素(PKS)により生合成され、ポリエンを生成するドメインの組を基本に持つと考えられた。よって、これまで知られている放線菌のPKS遺伝子との相同性を元に、生合成遺伝子クラスターの探索を行った。FR-900848の生産菌(Streptomyces fervens HP-891)からゲノムDNAを抽出し、制限酵素処理で40kb程度のサイズとした断片からfbsmidライブラリを作製した。異なる種間でよく保存されているPKSのKSの遺伝子配列をもとにして、degenerate PCRを行った。その結果、既知のポリエンマクロライド化合物のKSと相同性を持つDNA断片が得られたので、この断片をプローブにしてコロニーハイブリダイゼーションとサザンハイブリダイゼーションによるスクリーニングを行った。得られた陽性fbsmidのショットガンシークエンス解析の結果から、放線菌Streptomyces natalensisとavermitilisにそれぞれ由来するマクロライドPimaricinおよびFilipinに類似の生合成遺伝子が得られた。それらが持つATドメインの数とERドメインの存在は、予想する生合成遺伝子とは異なるものであった。従って、このプローブで検出されないか感度の弱い他のfbsmid中に目的の生合成遺伝子クラスターが存在する可能性が示唆された。また、先のdegenerate PCRでは他に粘液細菌由来のPKSに類似するDNA断片も得られており、今後はこれをプローブにすることで目的遺伝子を取得できる可能性がある。以上のように、FR-900848の生合成遺伝子クラスター取得に向けた基盤を構築し、新奇PKS遺伝子発見への道を開いた。
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