本年度は、脂肪族リン酸モノエステルの脱リン酸化によってスペクトル変化を引き起こす新規スイッチ機構を考案し、脂肪族リン酸モノエステル構造を有するphosphatase蛍光プローブの開発に取り組んだ。我々はこれまでに7-ヒドロキシクマリンの水酸基近傍にホスホネート基などのアニオン性残基が存在すると励起スペクトルが変化することを見出していた。これは分子内水素結合により、水酸基のpK_aがシフトし、水酸基のプロトン化の割合が変化するためである。この現象に基づきphosphatase活性を検出するプローブ化合物PEHCをデザイン、合成した。その化合物の7-ヒドロキシル基のpK_aは、脱リン酸化を受けた後に生成すると予想される化合物HEHCと比較して、より大きな値を示した。従ってこの化合物は酵素により脱リン酸化を受けるとpK_aがシフトし、励起スペクトルが変化するプローブとして機能することが予想された。実際に10μMのPEHCを含む100 mM HEPES buffer(pH 7.4)に、acid phosphatase(ACP)を加え励起スペクトルを測定したところ、励起スペクトル変化が観測された。PEHCは酵素反応前後で2波長の蛍光強度の比が変化するごとから、その比を測定するレシオ蛍光測定が可能なプローブであることが示された。 これまでに脂肪族リン酸エステル構造を有するphosphatase蛍光プローブは開発されておらず、脂肪族リン酸モノェステルの脱リン酸化を特異的に検出する方法論は未だ確立されていない。それゆえ、本研究で開発した手法はセリン/スレオニンのリン酸モノェステルを脱リン酸化するホスフアターゼの活性を特異的に検出するプローブの開発につながると期待される。
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