ヒトデ類の自切を生体防御行動ととらえ、自切の分子機構の解明を目指し、主に日本沿岸種のマヒトデ(Asterias amurensis)を用いて以下の研究を行った。 昨年度推定したマヒトデの自切を誘起する内因性物質(自切誘起因子、APF)のうち、合成した化合物の構造を、スペクトルデータからN-メチルキノリン酸(NMOA)と同定した。 APFの一つであるNMOAは、オープンチャンネルブロッカーのMK801や作動薬NMDAを用いた実験から、グルタミン酸受容体NMDA結合部位に結合すると推定した。 ヒトデ類は脳を持たないが、神経進化学的に脳の前身と捉えられている周口神経系(環状神経系)を持つことから近年ヒトデをはじめとした棘皮動物のが注目を集めている。脳を持たないヒトデ類がグルタミン酸受容体を持つという報告はなく、今後詳細を検討する。 もう一つのAPFであるニコチンアミド(NA)は、FK866を用いた実験から、NAD関連化合物の供給源として関与することが示唆された。また、NADが関与する因子のうち、サーテユインはNAが阻害することが知られているため、他のサーテユイン阻害剤を用いて実験を行ったところ、マヒトデの自切までの自切が短縮した。サーテユインの阻害が自切をもたらすのかどうか、今後詳細を検討する。 なお、NAとNMQAを用いたゆっくりとした自切は、ニッポンヒトデとエゾヒトデでも再現することを確認した。
|