プロテインホスファターゼは多くの重要な生理機能を担っているが、分子レベルでの活性制御機構や基質の認識機構についての解明は十分になされていない。本研究では、様々な生理的条件下におけるホスファターゼ活性をモニタリングすることを目指し、独自に開発したホスファターゼ阻害剤であるRE誘導体をプローブとしてホスファターゼ群を網羅的に標識する新たな手法の開発を検討している。まずRE誘導体を、ホスファターゼと共有結合を形成する不可逆的阻害剤へと改変することから開始した。両特異性プロテインホスファターゼであるVHRに対してもっとも効果的な阻害剤であったRE1をリード化合物として設定した。計算化学的に発生させたVHRとRE1の複合体のモデルから、5位置換基に存在する水酸基に脱離基を導入すれば不可逆的阻害剤になると期待し、種々の誘導体を合成した。その結果、メシル基を導入した化合物において効果的にDSPの一種であるCdc25Aと共有結合を形成することを見出した。また、水酸基をフッ素原子に変換した化合物でも不可逆的阻害剤となることも同時に見出した。そのことから本誘導体のホスファターゼとの共有結合形成は、単純なSN2反応ではなく、脱離-付加機構で進行していると考えられる。 また、メシル基を有するRE誘導体を蛍光ラベル化した化合物を種々合成した。蛍光ラベル体をHL60細胞やHela細胞に与え、細胞内局在を観察したところ、核周辺の細胞質に局在しており、本誘導体が細胞内に取り込まれていることを確認することが出来た。
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