本研究の目的は、ラオスの農村における水田とその周囲の景観において、植物相の記載、住民の植物利用や管理法の記録、種多様性が維持されているメカニズムの推定を行い、その結果をもとに地域に適した植物資源管理の方法を考察することである。 平成20年度には、調査対象であるラオス中部ビエンチャン県とサワンナケート県の村落において得られた、水田に生育する木本と草本植物の分布、水田の周囲に分布する林地の植生の分析を行った。その結果、水田には周囲の土地とは異なった特徴的な植生がみられ、住民の生活のなかで食用、薬用、工芸品の材料など重要な役割を果たしていることが明らかとなった。特に、水田雑草の1種であるゴマノハグサ科の草本は、ラオスの一般的な家庭料理「ケーンノーマイ(タケノコスープ)」の香り付けに欠かせない。ラオス北部では寒冷な気候のため同種は水田にほとんどみられず、その近縁種がホームガーデンで栽培されていることも確認された。このような水田植生の成立には、耕起や湛水などイネの栽培を目的とした農作業だけでなく、乾季に放牧されるウシやスイギュウによる被食圧、糞による種子散布など家畜の存在も関係していることが推察された。これらの成果は学会発表や学術論文のかたちで発表された。 さらに興味深いことは、ラオスの水田では一般的にほとんど除草が行われないことである。その理由として、イネの栽植密度が高いこと、貧栄養の土壌、林地を拓いた水田にはもともと水田雑草が少ないこと、の3つが推察されたが、今後詳細に検討する必要がある。 また、在来種が優占する水田植生の中にも外来種が侵入しつつあることが確認された。これらの調査結果の分析には、比較・検証のため、ラオス以外の国々の水田も観察する必要があると考えられた。
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