研究概要 |
一般に自殖性の植物では近交弱勢が弱く、個体群存続性への影響は考慮されていない状況だが、野外のストレス環境下で、近交弱勢がより強く現れ、個体群存続性にも影響を及ぼす可能性がある。本課題では、乾燥化や富栄養化など環境の悪化が著しい、貧栄養湿地に生育する自殖性の絶減危惧植物、イヌセンブリを対象として取り上げる。 2008年度は、被陰・乾燥ストレスの程度を制御した圃場実験個体群で近交弱勢の測定を行った。近交弱勢の測定は、人工授粉によって作成した自殖・他殖種子を播種し、その発芽・成長率を比較することで行った。圃場実験では、ストレス条件として、被陰の程度を寒冷紗を用いて操作し、乾燥条件は比高の高低(5,25,50cm)で変化させた。その結果、乾燥条件は実生の生存率に大きく影響し、比高が高く乾燥しているほど生存率が低く、さらに、自殖の個体で乾燥による生存率低下が大きい傾向が見られた。しかし、その後のロゼットの生存率においては、そのような乾燥条件と近親交配の交互作用は見られなかった。また、ロゼットの成長率は中間の比高(25cm)で最も高く、比高5cmでは過湿による成長速度の低下が見られた。被陰については、実験で設定した範囲では影響が見られなかった。 野外での血縁構造を分析するためのマイクロサテライトマーカーを、マグネットビーズ法を用いて開発、候補となる32座についてプライマー設計を行った。今後、増幅条件と対立遺伝子数の設定・検証を行う予定である。
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