研究概要 |
一般に自殖性の植物では近交弱勢が弱く、個体群存続性への影響は考慮されていない状況だが、野外のストレス環境下で、近交弱勢がより強く現れ、個体群存続性にも影響を及ぼす可能性がある。本課題では、乾燥化や富栄養化など環境の悪化が著しい、貧栄養湿地に生育する自殖性の絶滅危惧植物、イヌセンブリを対象として取り上げる。 2009年度は、被陰・乾燥ストレスの程度を制御した圃場実験個体群での近交弱勢の継続測定を行った。近交弱勢の測定は、人工授粉によって作成した自殖・他殖種子を播種し、その発芽・成長率を比較することで行った。圃場実験では、ストレス条件として、被陰の程度を寒冷紗を用いて操作し、乾燥条件は比高の高低(5,25,50cm)で変化させた。前年度の実生段階では、乾燥条件が生存率に大きく影響し、比高が高く乾燥しているほど生存率が低く、さらに、自殖の個体で乾燥による生存率低下が大きい傾向が見られていた。しかし、その後のロゼットの生存率および開花率・着花数においては、そのような乾燥条件と近親交配の交互作用は見られなかった。また、ロゼットの成長率および開花率・着花数は中間の比高(25cm)で最も高く、次いで比高50cmで高かった。比高5cmでは、成長率・開花率・着花数全てに大きな低下が見られ、過湿によるものと考えられた。被陰については、開花に対しても実験で設定した範囲では影響が見られなかった。
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