東南アジア大陸部の自然資源利用がどのようにおこなわれてきたのかを明らかにするために、過去数十年の土地利用変化を復元し、その変化の過程と要因について研究している。研究対象地域は、ラオス北部の山岳地域に位置する盆地である。今年度は、盆地に位置する小首長国の耕地拡大のメカニズムを長期的、短期的な変化にわけて研究を行った。 長期的な変化について、盆地底に位置する一村を対象に、1960年から2005年までの水田拡大におよぼした人口動態の影響を考察した。人口と毎年の水田開墾面積は時間的に変動していた。人口増加率は、1960年代と1975年〜1990年に特に高い傾向をしめした。1990年代後半からの水田開墾の拡大に従事した家族の世帯主の年齢を調べると、1960年代に生まれた人が多かった。よって、人口の変動と耕地の拡大には、密接な関係があり、さらに人口の増加は時間的なギャップをおいて、土地の拡大に影響していることがわかった。 また、短期的な変化の特徴として、近年のこれまで利用されてこなかった森林の急激な耕地化があげられる。これは、これまで市場経済の浸透によるものと人口増加によるものと説明されてきた。しかし、この地域では、人口は10年前から目立った増加傾向をみせていないため、これが耕地化へ寄与したとはいえなかった。一方で、この地域には、2000年以降、市場経済の浸透によってさまざまな商品作物が導入されており、森林は、商品作物を作付けのために耕地化していた。しかし、耕地化された土地は、慣習的にある村の土地あるいはある村人の土地と地域住民に認識されてきた土地に、他の村や村人が耕作することで拡大していた。さらに、両者間に耕作の合意がなされていない場合が多かった。よって、耕地化の背景には、さらに検討を重ねていく必要があるが、地域に蓄積されてきたソーシャルキャピタルの崩壊が関係している可能性がある。
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