本研究では、冷戦終結後の欧州地域の旧共産圏、すなわち、旧ソ連・東欧諸国が、どのように政治・経済発展を遂げているか、また紛争を解決して平和構築と安全保障を進めているかを、EUとの関係を鍵にして、比較研究することを目指し、また、黒海地域など、地域的な枠組みにも注目し、地域的な活動が果たせる役割やその限界などについても合わせて研究を進めている。 しかし、2008年の夏に、グルジアが南オセチアに進攻したことに呼応する形で、ロシアがグルジアを攻撃した「グルジア紛争」が起き、研究の見直しが迫られた。この紛争により、改めてコソヴォや旧ソ連の紛争に共通する「未承認国家」の問題が改めて重要性を増し、またこのような問題に対する欧米やロシアの立場も明らかとなった。さらに、この紛争を契機に本研究が研究対象としている地域の国際関係図や外交方針がより鮮明となったり、また変化をしたりした。地域的な枠組みもさらにクローズアップされることとなったのである。 さらに、9月に起きた世界規模の金融危機が当該地域へもたらした影響は大きく、その点についても重視する必要が出てきた。 そのため、今年度は8月より、当初予定していた研究よりもグルジア問題や世界金融危機の影響という課題を優先して研究したが、結果的には本研究の目的に直接資することとなった。今回のことで、地域の枠組みはまだ依然として弱いこと、平和構築が極めて困難であり、「未承認国家」の問題も解決のめどが立たないことなどが明らかになった。また欧米は一枚岩ではなく、どちらも自国に有利なプラグマティックな戦略を取っていることも分かった。これらの問題は現在も動いており、今後も継続的な調査、分析が必要である。次年度以降、引き続き、残された問題に取り組んでいきたい。
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