研究概要 |
本研究は市場経済導入後のインドの経済動向を占ううえで極めて重要な要素である農村から都市への労働力移動の実態に迫るものである。特に, カースト制度が色濃く残存するインドでは, そうした農村社会構造による労働市場への影響を解明する必要がある。そのため本研究では経済理論だけでなく, 社会人類学的な農村滞在型のフィールドワークを実施し, それを広域な計量分析の遡上にのせ, 経済学と社会人類学との領域横断的な手法を用いつつ, インドにおける経済成長の実態, および市場原理の地域的差異, さらに現代インドにおけるカースト制度の変容等を明らかにすることを目的としている。 本年度は、昨年度に作成した60カ村の「制度マップ」を利用し, その中から特に都市経済の影響を強く受けている農村について, 都市と農村の間にいかなる社会経済的関係性が存在するのかを検証し, またそうした関係性が農村内の社会制度(とりわけ農業労働雇用慣行)にいかなる影響を与えるのかを調査した。主な成果は以下の通り。 ・農外雇用機会が増加した場合, 農村内の誰が, どのような都市へ, いつごろから, どういった業種において関わっているのか, 家計にとっての重要性はどの程度で, それは村の階層変動や農業構造にどういった影響を与えているのか等が明らかになった。 ・1961年にアジア経済研究所の福武直氏, 大内力氏, 中根千枝氏が本格的な社会経済構造調査を行った結果との比較を通じて, 「伝統的」な農業労働雇用慣行が崩壊する過程を明らかにした。
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