研究概要 |
本研究の目的は,中国東北地区をフィールドとして,植民地期以降の社会再編プロセスと植民地の遺産化を実証的に再構成し,植民地経験と当地の住民のアイデンティティ構成について考察することである。この目的に沿って,2007年度において行った調査・研究の概要は以下のとおりである。 まず第一に,2007年8月に中国東北地区の主に遼寧省と黒竜江省においてフィールド調査を行い,関連資料の収集に努めた。遼寧省では,瀋陽市の九一八歴史資料館および鞍山市等において,当該地における歴史研究や資料の収集,および展示館の関係者への聞きとりを行った。黒竜江省では,黒竜江省社会科学院歴史研究所の研究員および暗爾浜来訪中の東寧県文物管理所所長等へのヒヤリングを行い,植民地関係の施設管理状況や発掘にかんしての情報収集に努めた。また東北烈士記念館や黒竜江民族博物館,孫呉要塞,発電所跡地,愛琿陳列館,黒河市内の博物館,八一〇微波台等において,フィールド調査を行った。孫呉県と黒河市では,孫呉県政府内の文物管理所および黒河市の文物管理委員会の関係者への聞きとりも実施した。 本研究の中心的課題は,中国東北地区の住民の視点から,植民地期以降の社会再編プロセスを描き出すこと,またそのなかで植民地関連の施設等の保管・展示の現状を捕まえることにあり,今回の現地調査において収集された資料および口述データは,そのための重要なリソースの一部である。 第二に,前述の現地調査への準備作業および補助的調査として,日本国内において,主に国立国会図書館への資料請求と京都大学内の図書館での閲覧等をとおして,関連資料の収集を行った。本研究の重要なデータ・リソースは中国でのフィールドにあるが,地域の広大さや交通状況,資料閲覧の制約等により,日本国内での資料収集の至便である部分での補助的な調査であるが,研究の全体状況を把握するためにも重要な作業である。
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