本研究の目的は、中国東北地区をフィールドとして「満洲国」という植民地期以降の社会再編のプロセスを当該地の住民の視点から再構成し、植民地経験と当地の住民のアイデンティティ構成の関連について考察することにある。この目的にそって今年度行った調査・研究の概要は以下のとおりである。 本研究のデータ収集のうえで中国東北地区での現地調査は不可欠である。本年度は、黒竜江省哈爾浜市および内蒙古自治区東端にあるオロチョン族自治旗(阿里河鎮)においてフィールドワークを行った。哈爾浜市内での調査は昨年度からの継続であり、東北地区における抗日戦争期を代表する博物館の一つである東北烈士記念館での調査および日中の関係者からの聞きとり調査を行った。内蒙古自治区阿里河鎮での調査は今年度からの新規作業であるが、中国の少数民族の一つであるオロチョン族の集住地において、伝統的祭祀である「箸火節」準備期間に彼らの民族舞踊・音楽等の維持・継承活動への参与観察を試みた。 またオロチョン民族博物館および遺跡の一つである「嗄仙洞」への視察、オロチョン民族研究会および自治旗政府でのヒヤリングを行った。さらに植民地期や定住化以前の山野での生活体験をもつ老人を中心に聞きとり調査を実施した。オロチョン族は植民地期の日本人統治時代に国境での活動に重要な役割を果たした民族であり、ここでの調査は東北地区の多様な構成からなる住民の植民地経験とその後の生活との接続を知る上で重要なデータとなる。これらの調査の成果は、下記の研究報告のなかに一部反映されている。さらに日中社会学会冬期研究集会において研究報告を行い、研究の分析枠組みについて検討を行っている。
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